「Next to Normal」 観劇

観劇日:2024年7月6日 19:30公演
劇場:Wyndham’s Theatre

こんな方におすすめ
・ロックミュージカルが好き
・スターの歌声を聴きたい
・観劇後に、色々と考える時間が好き

作品タイプ
「Dear Evan Hansen」「Hedwig and the Angry Inch」「アルジャーノンに花束を」

日本でも今年の12月に再演が予定されている「Next to Normal」

2009年アメリカ・Tony賞11部門ノミネート、主演女優賞・楽曲賞・編曲賞の3部門を受賞。
2010年にはPulitze賞の戯曲部門を受賞したミュージカル。
まさに楽曲と脚本がピカイチと評価された作品!

今回は、2024年のイギリス・Olivie賞で、
新作ミュージカル作品賞を含む4つの賞にノミネートされた演出。

(これまでロンドンで上演されていなかったのが意外すぎる…)

扱っているテーマは重いですが、中毒性のあるロックな楽曲が本当に魅力的。
♪I’m Alive の前奏聴いたらねえ、私もいえーーーーーいってなる笑

まだ観たことがないという方は、初見で物語の秘密に驚いてほしい…
けど、書きたいことがしっかりネタバレになってしまうので、以下、読んでもいいよ!っていう方へ。
とっても素晴らしかったです。

あらすじ(ネタバレあり)

家族のためにサンドイッチを作る母親・Diana
愛妻家の夫・Dan
学校へ向かう支度をするGabeNatalie
一見、普通に見える朝の家族模様。
でもそれぞれが心に傷を抱えた家族の物語。

双極性障害を患うDianaは、Danと一緒に通院。
処方された薬を試しても効果がないため、担当医を変更することに。

新しい担当医のDr. Maddenからカウンセリングと催眠術を受けるDiana。
彼女が病気を患うきっかけとなったのは、生後8か月で亡くなってしまった息子・Gabeの存在だった。

Natalieのボーイフレンド・Henryを招待した夕食会で、
Gabeの18歳の誕生日をお祝いしようと、ケーキを運び始めるDiana。
彼が亡くなって長い月日が経った今も、Gabeの幻覚と共に生きているのだった。

そんな母親のように自分もなってしまうのではないかと不安を抱え、
家族の中で存在意義を見失うNatalieはドラッグにおぼれていく。

Gabeに誘われて、自殺未遂をしたDianaに、電気ショック治療を提案するDan。
Dianaは一度は拒否するも、治療を受ける契約書にサインをする。

治療を経て、Dianaにも変化が。
「普通ではない。」 でも、前に進もうと、もがく家族が辿り着く先とは…

観劇してみて

パワーがある楽曲、そして芝居も要となるこの作品。
出演者は6名と少ないですが、みなさま抜群に歌も芝居も上手かった。

Diana役のCaissie Levy
これまで「Wicked」のエルファバ役や「アナ雪」舞台のオリジナル・エルサ役など、
世界中で活躍されている方。
私はエルサ役から知ったのですが、生で観ることができて嬉しかったです!

普通に歌うだけでも難しそうなのに、Dianaという役の葛藤、病気による気分の浮き沈み、
一人の人間であり、妻であり、母である感情の機微が伝わる歌の表現力。
衣裳の変化とも相まって、治療を通して少しずつ別人になっていくようでした。
異常さが少しずつ落ち着いて、「普通の人」になっていく感じ。


電気ショック治療の結果、記憶障害で家族のことも忘れてしまうけど、
結局はGabeのことも思い出す。
(病気の引き金であるGabeのことを忘れさせるのも治療の狙い)

ただ、彼を思い出した後は、幻覚に依存するのではなく、大切に思いつつも、
自分の人生を生きようと新しく踏み出していくスタートのように感じて。
何度消し去ったとしても、彼も彼女の一部であって、忘れることはできない。
誰かに、技術によって、消されてよいものではない。
生きていないからといって、なかったことにはできない。
ただ、事実を受け入れるには、重すぎる。

消し去りたいようで、そうはできない狭間でずっと苦しんでいたのかなと。



Dan役のJamie Parker
「ハリーポッターと呪いの子」初演でハリー・ポッターを演じていた方。
終盤、Dianaが家を出ていってから、一気にDanへと焦点が変わっていく緩急。
びっくり。観ててゾワっとした~~~
観てるこちらの集中力が、ぐんぐん上がっていく感じ。

ここまで、人間ってあっという間に壊れてしまうのか、っていうのを目の当たりにした瞬間だった。
Dianaが悲しみの中でもがいていた一方で、Danは悲しみに必死に蓋をしていた人のようで。
彼女を支えることで自分を保っていた。
彼女のために、自分は大丈夫なふりをしないと生きてられなかったのかなと思ったり。
Dianaにも話していたけど、どうやってGabeが亡くなったのか、彼だって覚えている。
彼女と同じように、辛い現実に直面せざるを得なかった。

Dianaが出て行ったことで、自分がどうやって生きていたらいいのか。
抑え込んでいた分、痛みの反動が大きい。
そこに踏み込んでくる、Gabe。
Dianaと一緒に行かなかったもんね。

DanとGabeで歌う、♪I am the One (Reprise)
Gabe「You always know who I am. Hi dad」
「ずっとわかってたよね。僕のこと」って。
上手く言えないけど、痺れた~~~~~~。
この人、ずっとずっと辛かったんだろうなっていうのが、観ていて苦しかった。



Gabe役のJack Wolfe
Gabe….いやあびっくり。爆発力。
観ていて等身大10代なのかなと思って調べたら、28歳でした!!
舞台や映像での経歴もしっかり。
本作のGabe役でOlivie賞の助演男優賞ノミネートやWhatsOnStage賞など、数々の評価を受けています。

もちろん最初は、内気な青年のようにも見えますが、
事実が分かってからは、狂気さを感じる。

スタンドマイクからハンドマイクに持ち替えて歌う♪I’m Alive
バンドがいる上の階から少しずつ下に降りて迫ってくる感じが、
Dianaの頭の中でガンガンに声が響いているような印象だった。
俺は生きてるぞって、消せないよって。


West End Liveやプロモーション映像も聴きましたが、
舞台での感情が乗った♪I’m Aliveに勝るものなし、というインパクトだった。



Natalie役のEleanor Worthington-Cox
「Matilda」初代マチルダを演じた一人で、2012年オリヴィエ賞の主演女優賞も受賞した彼女。

              3:16~Eleanorのマチルダ。受賞スピーチがみんな大人っぽくて、可愛い笑


とてもDianaとNatalieの繋がりを感じる演出でした。

死んだ息子に囚われている両親から感じる疎外感。
現実では、あまり向き合っていない(物理的にもあまり会話しない、しても喧嘩になりがちな)母娘だけど、音楽から二人の繋がりを感じるのが面白かった。
互いの葛藤や抱えている感情に共通性があって。
DianaにとってはDan、NatalieにとってはHenryという支えになる存在が近くにいて。

だからこそ、終盤、Gabeのことを思い出したDianaが、病院へと向かう際、
「Natalie」と助けを求める場面が印象的。
Danではなくて、娘を頼ることに、Dianaの変化を感じる。
この場面は、22年の日本公演を観た際にも、印象に残ったシーンでした。


ラストシーンで、家の中で崩れている父親を見つけた、Natalieが部屋に明かりを灯す。
「まずは灯りが必要」って、最後の歌とのつながりがとっても綺麗だった。
彼女自身の成長も感じました。


そんなNatalieのボーイフレンドHenry
NatalieとDianaの関係性がしっかり見える分、Henryの存在もより大きく感じました。
(こんなに出番多かったっけって思うくらい)
どうしてNatalieのことを大切に思うのか、
絶対に見捨てないからと言い切れるのか、
彼がどんな経験をした人なのか、自分が掴みきれなかったのが悔しい…

ただ、物語の中で家族の一員ではない存在。
そのことに意味があると感じる素敵なお芝居でした。


ちなみに、24年Olivie賞受賞式での、このパフォーマンス。
めっちゃ好き!!笑

生で聴いてても辛かったけど、DianaのNatalieへの「I love you as much as I can」…
からの♪I’m Alive
構成がよい!!!!
レコーディングスタジオの映像よりも、こちらのAliveの方が、舞台での雰囲気に近い!
Gabeのアドレナリン出てて、ぶっ壊しに来てる感じが!


シンプルで、the郊外住宅なお家の美術。
2階にバンドエリアが作られていて。
バンド前に張られたガラスが場面によって、透明になったり、曇りガラスになったり。
Gabeを思い出す場面の曇り具合、閉じ込められたように歌っている姿も印象的。
視覚的にバンドが見えることで、よりカオスを感じる印象だった。音だけよりも。


全員ボロボロだから、引っ張られてこちらもズタズタになるんだけど、
最後にふわっと希望を感じる作品。
すごいスピードで、見ている自分の感情の振れ幅にもびっくりする。
素敵な作品だ~と改めて実感した。

今回の劇場

劇場は、TKTS(割引チケット販売所)のあるレスター・スクエア近くの「Wyndham’s Theatre」

劇場の印象は、すごくシンプルで分かりやすかった!
入場して正面の階段を上がると、すぐにお手洗いがありました。


座席はStalls/Royal Circle/Grand Circleの3階層に分けられていて、全799席。
各座席からの見え方はこちらのサイトが参考になります!

今回のチケット

公演の公式サイトからチケットを購入しました!
価格は45ポンドで、日本円だと9000円くらい。(24年7月時点)

Royal Circle- D16 という席でした!

当日販売のRushチケットを狙っていたのですが、残席が少ないこともあり、売り切れてしまいそうだったので、観劇の1週間前に購入しました。
他のサイトとも見比べた中で、同じ座席でも公式サイトが少し安めでした。

ステージ全体を観ることができて、ちょうどよい距離感でした!

最後に

normalではなくていい、ただnext to normal、 普通の隣を目指そうって。

怒りも、戸惑いも、悲しみも、混乱も、
歌いながら、感情がぶつかって、殴り合っているようにも感じる。
叫びたくなるくらい、どうにもめちゃくちゃな感情を表現する歌の巧みさ。
面白いという言葉が適切かは分からないけど、本当に面白い作品。

ぜひぜひ歌声を浴びに、劇場へ!!

「Next to Normal」
上演概要


公式HP:https://www.nexttonormal.com/
劇場:Wyndham’s Theatre

上演期間:6月18日~9月21日
開演時間:月曜日~土曜日 19:30
     木曜日・土曜日 14:30
上演時間:約2時間25分/休憩含む

※精神病・適応障害/死別の描写、血糊の演出あり

Cast

Diana:Caissie Levy – 双極性障害を患う母親。
Dan:Jamie Parker – 妻を献身的に支える夫。
Gabe:Jack Wolfe – DianaとDanの息子。
Natalie:Eleanor Worthington-Cox – DianaとDanの娘。
Dr.Madden/Dr.Fine:Trevor Dion Nicholas – Dianaの担当医。
Henry:Jack Ofrecio – Natalieのボーイフレンド。

Creative

音楽:Tom Kitt
作・歌詞:Brian Yorkey

演出:Michael Longhurst
音楽スーパーヴァイザー:Nigel Lilley
美術・衣裳:Chloe Lamford
振付・演出補:Ann Yee
照明:Lee Curran
音響:Tony Gayle
映像:Tal Rosner
キャスティング:Anna Cooper CDG
音楽監督:Nick Barstow

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

タイトルとURLをコピーしました